切端日記「歌日記」2012年3月
- 3月1日
- ……
- せせらぎの上に降り來る日の光より效く酒に會うたこと無し
- 3月2日
- ……
- 超新星爆發の音は屆かない 符に圍まれた僕の下へは
- 3月3日
- 「歌日記」すらサボりがちになつてきました。良くないことです。
- 今日も温泉に行きました。サウナの入り方のコツも、少しづづ判つてきました。
- 嫌な女列傳なんか讀んでゐないで踊れディスコで橋で路上で
- 3月4日
- この日は明大前のキッド・アイラック・アート・ホールで、平岡淳子さんの詩の朗讀を聽きました。
- 不必要にリリカルなのは惡い癖 花よ散れ散れ亂暴な程
- 3月5日
- 最近短歌は低調です。でも、昔のやうに止めるのではなく、低調のままゴロゴロ行くのです。
- 疲れたから安易な道を走らうとしたが、三月は工事の季節だ
- 3月6日
- ……
- 概念の加減乘除の歌を捨て心の底に撒くアルコール
- 3月7日
- 「蟹本」の原稿を考へてゐました。書けば書く程、自分の知識の無さを思ひ知ります。日本の歴史、傳承、能、謠曲……。手も足も出ません。こんな僕が書くのでは、面白い原稿に成りやうもないですが、それでも書くのです。少し申し譯ないとは思ふけれども。
- 蟹のこと考へ乍ら見上げればなるほどすごい月が出てゐる
- 3月8日
- ……
- あれもしたいこれもしたいと思ふだけではただ單に年を取るだけ
- 3月9日
- ……
- 謎の無い晴天 僕はただ一人風に十指を差し込んでゐる
- 3月10日
- ……
- ふとつれさられさうになるとき魂の冷えと震へは枯れ枝のやう
- 3月11日
- JR南武線鹿島田驛を降り、JR新川崎驛前を通り拔けて、前から目をつけてゐた丘へ。そこは加瀬のお山といふ所で、丘の上には、日蓮宗のお寺と戰歿者慰霊の爲のモニュメントに挾まれる形で、ちよつとした公園がありました。春はまだ淺い中、樣々な年齡層の人々が、それぞれに遊んでゐました。早く暖かくなるといいのに。
- ずぶ濡れの腹々時計ひつさげて遲れて着いた春の神樣
- 3月12日
- これは戲歌なので甚だしくクオリティが落ちますが、出來てしまつたものは仕方ありません。後々の爲に註釋しておくと、三月十六日、映畫「スター・ウォーズ エピソードI ファントム・メナス」の3D版が公開になりました。
- 行きたいなファントム・メナスでもそんな金が一體どこにあるのよ
- 3月13日
- 蟹本の原稿を一應書き終へ(最終チェックが殘つてゐますが)、ふと考へてみれば、短歌のはうを全然やつてゐません。3月11日迄は何とか間に合つてゐますが、それ以降は必ずしも日記の日付と短歌の實際の製作日が一致してゐません。
- また少しづつ、立て直していきますが……誰にも文句を言へる筋合ひではないでせうが、いつ迄もだらだらと寒く單調な今年の冬に對してだけは、お前のせゐだと一言愚癡をこぼしたくもなります。
- 雜巾で口を拭つて春支度ままならぬ部屋に寢轉んでゐる
- 3月14日
- 俳人の堀本裕樹さんが主宰するイベントHaiku Barに參加する爲、四谷のとあるバーに行きました。我が笹公人師範がゲストとして登場するとのことでしたので、平日なので無理かなと思つてゐましたが、決心して行くことにしました。
- イベントは公開句會といつた趣で、自由にお酒を飮み乍らといふこともあり、眞面目かつ明るい感じでした。一月迄の僕だつたら、俳句を口を極めて罵つてゐた譯で、このやうな會に行かうとは、たとへ師範がゲストだつたとしても思はなかつたことでせう。しかし今囘のイベントでは、堀本さんの膨大な蓄積に舌を卷きつつ、非常に興味深いお話を聽くことが出來て、良かつたです。
- 僭越な物言ひですが、短歌との關聯に基づき、僕は俳句のコツのある一端をつかみました。今なら俳句も作れます。しかし、それは飽く迄短歌との關聯上のことなので、結局のところは「遊び」に留まつてしまひさうな氣もします。そもそも短歌だつてまだ勉強の途上なのだし……氣が向けば、これからもぼちぼち句を詠んでいくでせうが、やはり今のところは短歌一筋の氣構へを忘れないやうにしなければなりません。
- 河骨の葉の卷物を解く風と光のいまだ弱き池端
- 3月15日
- ……
- 耄碌の途上で野邊の花の名をひとつ覺えてひとつ忘れて
- 3月16日
- 「蟹本」の原稿を送信。さて、これで各種原稿方面は一段落です。これから何をすべきか?……それは勿論短歌、特に滯つてゐる「題詠百首」ですね。
- ささがにのいといちしろきつゆをぬくあしたにひとをもへばかなしも
- 3月17日
- ……
- 苦々しい風に追ひ立てられてゐる鳥を哀れみ僕も手を振る
- 3月18日
- たまたまラ・ロシュフコオといふ人の「箴言と考察」といふ本を入手して讀んでゐるのですが、これはまた昂奮させられる本です。名利を求めても嘘、求めなくても嘘、はてさてどうすればいいのやら?ここ一年の「板挾み感」については僕自身もいろいろ考へることがあるのですが、それを突き詰めないところに僕の逃げがあり、さういつたところをこの本は鋭く突いてくるのです。
- 絡み合ふコンビナートの燈火に素知らぬ顏で混ざる天狼
- 3月19日
- 日付を間違へてゐました。
- 仕事の〆切が早まり、この日はちよつと忙しかつた。
- 積み上げたセンチメンタル切り崩し馬鹿になれ春風のさなかで
- 3月20日
- ……(個人的メモ:春分・ピスちやん)
- 晴れたから戀もしつくりいくだらう獨人私は仕事中だが
- 3月21日
- ……
- 異端兒を氣取るにはもう年を取り過ぎてゐるもの するめをしやぶる
- 3月22日
- 日付の亂れ感覺がなかなか治りません。
- 橋の上の自動車事故を燒くやうにぬらぬら搖れる春の陽炎
- 3月23日
- ……
- 「無邪氣さを惡用してゐる奴がゐる」電光板にたぢろぐ私
- 3月24日
- ……
- 國立は雨降り續き折角の春が斑に塗りつぶされる
- 3月25日
- ……
- 用水の芹に堰かれた亂流が細かい文字を書く春が來た
- 3月26日
- ……
- 背伸びしか知らない草をかき分けて行けば川面に散る僞寶石
- 3月27日
- ……
- 腦内に海老あり常に後ずさりしつつ俤を喰らひ行くなり
- 3月28日
- ……
- 春疾風 五百由旬の菩提樹と見えた積亂雲が崩れる
- 3月29日
- ……
- 藝術に惱んでゐるつて言ふ葉書に書き添へてみるへのへのもへじ
- 3月30日
- ……
- 旗を燒く煙を避けて蛾が一頭行くのは水を求めてなのか
- 3月31日
- ……
- 太陽にひつぱたかれた土の端の火藥のやうな花の數々