「笹公人の短歌Blog」銓衡通過短歌集

このページは、酒井景二朗が「笹公人の短歌Blog」に投歌した短歌中、歌人の笹公人師範による「總評」を通過した作品をまとめたものです。

もともと「笹公人の短歌Blog」は、在京のFMラジオ局J-WAVEの番組「MUSIC PLUS」の企劃でした。現在は、番組から獨立し、投歌サイトとして大絶贊繼續中です(http://www.sasatanka.com/)。2006年3月21日總評分迄が「MUSIC PLUS」時代のものに相當します。

ページの下から、古い順に竝んでゐます。

總評中、「その他の注目作品」として擧げられてゐるものは、完成度が他に比較して低いものといふことなので、△印を付けました。

元のページでは、笹師範のコメントが歌につけられてゐる場合がありましたが、ここでは全て割愛しました。少々繁雜になるのと、著作權上問題があるやうな氣がしたためです。

表記については投歌時のままとし、僕が正字正かなを使ひはじめる以前の歌は新字新かなのままです。何故さうしてあるのかについては、「何故『正字正かな』を使用するか」をご覽ください。

また、いくつかの短歌は他のページにまとめたものと重複してゐますが、あへてそのままにしてあります。

※アニメ(2010年度版)にて優秀作品を獲得したことにより、念願の「殿堂入り」を果たしました。よつて、このコーナーは、この囘の作品の掲載をもつて終了といたします。これからは、殿堂入り作者コーナー「酒井ファンタジーセンター」を、どうぞよろしくお願ひいたします。


2010年03月23日 アニメ(2010年度版) 総評
「重戦機エルガイム」
眼の前に機械があつて友がゐて戰爭がある俺の青春
「巨人の星」
傳説のひとつひとつを噛みしめてコンダラを牽く新入部員
「キン肉マン」
友情の熱き息吹にあふられて遙か虚空を行くアデランス
「Theかぼちゃワイン」
JIS規格適用外の二人なら戀も唯一無二になる筈
2010年02月14日 一(1) 総評
一齊に飛び立つ鳩の眞ん中にただ清らかな君の眼がある
アイデアを一蹴されて歸る路の夕日が美しいのは何故だ
朝早く一休さんが蹴倒したお地藏樣が微笑んでゐる
2010年01月05日 石 総評
インチキなテーマパークの石像に酸をぶつかけ泣かせてみたい
成人に滿たず逝きたる友の部屋にいとも拙き投石機あり
山路來て石より生ふる松見たり我は辛抱足らぬ者なり
なめらかな團栗ひとつ石ひとつ冬枯れ森の土産物なり
石の上鱒は見事にさばかれて爺樣と僕の夏は終つた
2009年11月23日 人形・ぬいぐるみ 総評
嗚呼華奢な肉人形に逢ふ爲の哀しい人の列につらなる
戰場に空しく散つたおもむきで砂に埋もれてゐるミクロマン
電源が呪詛をうそぶくさう今こそ學天則が暴れだす秋(とき)
にやんまげにとびつくほどのいきほひで戀を探つてみたらどうだい
2009年10月09日 猫 総評
曼陀羅に磔(はりつけ)された猫があり今宵華族がまた一人死ぬ
2009年08月27日 海 総評
怪獸が泣く泣く歸る荒海は土筆の煮汁色に染まつて
(例外的に一言:總評は通りましたが、今思ふとこれは字餘りが過ぎたやうな氣がします)
辛すぎるアジア 海に數多の雜菌がはびこるアジア 我らのアジア
2009年07月12日 ゲーム 総評
ゼビウスの轟音響く空の下農業はやりづらいみたいだ
2009年05月26日 食べ物 総評
今年もまた桃を剥く日がおとづれて不埒な夢がくすぶりだした
葛切りのプールで泳ぐ惡徳をティーンエイジの君にあげよう
2009年04月05日 建物 総評
100tの鐵の鎖を搬入する 天使立入禁止の塔に
エボラ熱大感染を省みず宇宙へ去つて行つた都廳舍
死ぬのなら昆蟲館と決めてゐるこの身全てを蛆にあづけて
天空に一瞬見えた樓閣が崩れた 夏を拂ふ夕立
2009年02月13日 UMA(未確認生物) 総評
耳もとのスカイフィッシュの脱け殻を「きれいでしょ」つて脅しか、それは
2008年12月30日 店屋・店名 総評
涼しげなアリスを安く賣る店に行かないことに決めた 門出だ
パチンコ屋マルゴのネオンの裏側で血の出るやうなキスをしないか
2008年10月31日 日本昔ばなし 総評
「浦島太郎」
海龜を裏返しては涙ぐむあの爺さんもかき消えて凪
2008年09月01日 水 総評
この水で傷を洗へばいいんですね 二度確かめてシャツを脱ぎ去る
脅迫が堂に入つてゐる君はまた水鐵砲を斜に構へて
君と僕のがさつく指を磨り合はせ水族館を暗くしてやる
2008年07月16日 日本史上の人名 総評
身をよぢるマリオネットの修繕を近松門左衞門にたのまう
△番長の學ランの裏の歌麿が融けだす程の激鬪だつた
2008年05月11日 湯・風呂・温泉 総評
湯面は眞つ平らなりそに寒き爪先入るる朝こそ良けれ
鐵湯を啖ふ天狗の苦しみか戀の焔のあらあらしさは
恥ぢらひを全て振り捨て君はまた直方體の光の中へ
かうなれば荒療治だと言ひ乍ら煮詰め草津の湯を飮み下す
夏はもう夢でしかない大船の重曹泉にどつぷりつかれ
毆られて氣がつくこともあるだらう 華嚴の瀧よ打たせ湯になれ
2007年11月29日 SF 総評
有明の冷凍倉庫借り切つてさあ語らうぢやないか未來を
幾何學を間違へたやうな街角で萬華鏡屋が開く黄昏
だからつてそこでワープはないだらう カフェに獨人の秋の淋しさ
知らないよ 胸のほてりを飽く迄も量子效果と言ひ張るのなら
足首にプラチナのタグちらつかせ君は集積囘路の子供
2007年10月21日 漫画家 総評
「千之ナイフ」
永遠ニ老イヌ少女ハイカガデスカとカタコンベから我を呼ぶ聲
「高橋葉介」
安酒場の隅から聞こえてきた會話「檻を買つたら少女も要るな」
「勝川克志」
ビー玉を二三個ポケットに入れて昭和を驅け拔ける 下駄履きで
2007年9月21日 地名 総評
天界を侵略しつつあるのだから虹も切り刻まれる東京
黄昏の犬吠埼の突端にひとりエンリケ航海王子
お互ひをむさぼり盡くす覺悟として胸に「札幌」の字を書き付ける
高圓寺ビルを躱した夕燒けに二階の窗がゆつくり染まる
悲しみに沈むおまへの脊柱にカリフォルニアをなすりつけたい
野邊山にエレクトロンが降る夜にあなたの細い指を握つた
台風にブラジルビキニ飛ばされて夏はかけらも殘さず消えた
2007年8月19日 田舎・ふるさと 総評
對岸の測量技師をにらみつつ祖父は危險な漁法を試す
スク水の君が手を振るその昔河童が立つた岩の上から
泥の濃い田んぼは顏がよく映るなんて不樣な俺なんだらう
新しい僕になりたい田舍家の樋の詰りを掻き出すやうに
2007年6月29日 都市伝説 総評
巧妙にデザインされた暴動に加はる爲にチケットぴあへ
ヒチコック劇場といふ店の前の巨大な誘蛾燈が火を噴く
お臺場の球體あれはラフレシア栽培用の集光裝置
呪ひつつコスメティックのポスターをはがす老婆の指が泡立つ
息を止めコンビナートを驅け拔けるこの胸にまだ蒸氣の世紀
2007年5月20日 春 総評
腹を出し巧みに媚びる野良猫とはつかずはなれず歩む春の日
隱し事だらけの手帳破り捨て春の眞中に墜落しよう
ピューと吹く!ジャガーな氣分 青春のけものみちからまだ出られない
櫻菓子竝ぶデパ地下くぐりぬけ春のふところ淋しくなりぬ
韻を踏む餘力もなしとたふれこむ春の布團の生ぬるきかな
オロナミンCのハフラウ看板が昭和の春から微笑みつ放し
2007年4月11日 色 総評
呪詛ひとつ鞄に詰めて來た秋葉 つり目メイドの服は漆黒
草原の空氣サラダの中に立ちみどりみどりを吸ひ込み盡くせ
午前二時バーのネオンがじれてゐるガンズ・アンド・ローゼス色の街角
スポーツのやうに戀する者たちのくるぶしの桃色の速度よ
吉祥寺緑萌え出す公園の意外に通る鴨の濁声
化粧する若人どちのさはなるを地獄色などと言ふのは如何
2007年2月23日 バンド、ミュージシャン、歌手(アイドルグループ含む) 総評
「クラフトワーク」
何も無いドイツの道を二千キロ走れば辿り着くニルヴァーナ
愛からはさかりてありぬ自轉車に乘る人々の孤獨を思ふ
「平沢進」
遺されたコードネームは「無念ナリ」發光瓦斯の中に立つ人
「P-MODEL」
リコリスの葉を撒き散らし撒き散らす機械油の浮いた路上に
2007年1月11日 事件 総評
「切り裂きジャック」
性病に犯されたこの都市に居て信じられるのはナイフ、これだけ
道徳が皆梅毒で死んだ國に生きる意味無し死ぬ意味もなし
魂は金で買へぬといふのならナイフでゑぐり出すそれだけさ
麻繩を首のまはりに卷きつけて空念佛をぶつた切る俺
蛆蟲を潰す快樂を知つたから天使ごつこはこれで仕舞ひだ
足元の血に映る月につぶやいた 俺は助けてほしかつたんだ
2006年11月30日 格闘技 総評
△夕されば格鬪村の謎祭金剛力士像を煮て喰ふ
2006年10月23日 アニメ 総評その2
「ドラえもん」
なよ竹の節を掌で計りをるタケコプターを削り出さんと
「耳をすませば」
イタリアの雨音はどう響くのかいつかゆつくりきかせてください
「攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL」
多國籍企業のビルのてつぺんに鐵とブリキの馬頭觀音
「プロゴルファー猿」
孫悟空が呪ひの谷に立つてゐる如意棒がはりにウッドを持つて
「アニメ」
戰爭のアニメたくさん見てきたが死の冷たさを僕は知らない
「女王陛下のプティ・アンジェ」
これもまた諜報なのだと腹をくくりでかいスコーンに挑むところだ
「攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL」
手や顏などどこかが缺けた人形が軋み流れる東京運河
「アニメ」
眞つ黒な旗が振られる丘の上正義はつまりなんだつたらう
悲しみを鞄に詰めた要するに懷かしアニメ特集號を
2006年10月3日 アニメ 総評その1
「アンパンマン」
丸顏の精靈が立ちあがつたのだ未開部族が焚く火の中に
「銀河鉄道999」
星の夜街の鐵道模型店の窗に貼り付く少年がゐる
大盛りのラーメンいくら啜つても暖まらない心もあつた
「となりのトトロ」
四五册のエロ本買つた歸り道トトロの森は避けて通らう
「アニメ」
ペットボトル買つたら蓋についてきたアニメのキャラは知らない娘
「あの頃は正義も判りやすかつた」言ふなよ夕べのテレビ見る君
「チャーリー・ブラウン・シリーズ」
ひとつだけ先にしぼんだ風船をチャーリー・ブラウンと名づけ見てゐる
スヌーピーの眞似して飮んだルート・ビアはちよつと氣持の惡いのどごし
アメリカの家の廣さは子供らの惱みを輕くしてはゐないな
「天空の城ラピュタ」
その町ぢや娯樂といへば喧嘩だけ あの日少女が舞ひ降りる迄は
折り鶴に飛行の石をひとかけらしこめばラピュタ目指し飛び去る
2006年9月5日 酒 総評その2
朝燒けの速度に負けず僕たちはまだ燒酎を吸ひ込みやまず
居酒屋の壁に谷川俊太郎 さうか!僕らは生きてていいんだ
2006年8月16日 酒 総評その1
ダイキリの杯眞上から見下ろせばさうか今宵は滿月だつた
アブサンの香りを思ひ出すために明日は芝生に倒れてみよう
歌舞伎町奧の中國飯店で龍の血よりも濃い酒を飮む
みんなみんなお疲れ樣の東京に赤玉ポートワインの夕日
これはまた何の魔法かいつのまに枕の下にウオトカの壜
2006年7月19日 魚介類(海草含む) 総評その2
服を脱ぐ少女が映る水槽でナマコばかりが元気だった日
あんなにも遠くカジキが跳ねている夏は金剛石の一片
トビウオに油をさして知らんぷり 明日は港も崩れるだろう
言い出せない悔しさなどは喩えればサザエの奥にある苦い水
雨の日は窓に貼り付くミズクラゲ そうか海中都市に来ていた
くるぶしの青い魚が死んだならおそらく君はもう子供じゃない
夏まぢかプール掃除の君と僕はなんで魚じゃないんだろうね
2006年7月19日 魚介類(海草含む) 総評その1
はびこりぬるヱチゼンクラゲ駆除せむと日本海に墜つるミサイル
いと厚きトビウヲ色のマニュアルを抱きて明日は飛ぶ宇宙飛行士
ヒトデもて君がかひなに刺青を刻まむ夏の顎の如きを
絶望に頭垂れたるビルがあり夜の都会にウリクラゲ浮く
大風に木さへ根こそぎ倒されて蛸の墓場の如き丘なり
シロナガスクヂラの下の暗がりの容積ほどに憂はしきかな
軍艦てふおそろしき名に恥ぢぬがに弾丸のごと居並ぶイクラ
2006年7月4日 テレビ・テレビ番組 総評その2
触れられぬものは所詮は幻だテレビの中のハナガサナマコ
弾丸が飛ぶ飛ばないの違いだけテレビの中はいつも戦争
言われてた「テレビを見るとバカになる」お言葉通りでしたよ母さん
真夜中にテレビのノイズ見つめてる見知らぬ海に僕は来ている
暇なときはテレビの前で爪を剪る僕の破片が画面をはじく
爺さんの形見の錆びた柱時計動き出したら信じてやるさ
2006年6月19日 テレビ・テレビ番組 総評その1
候補者の述べる政策とかよりも髪の毛の量ばかり気になる
血の色がより鮮明になるというハイビジョンなど僕は要らない
土筆って食べられるんですねって言うテレビを母と呆れつつ見る
天気予報見るとき必ず気にしてる君住む街の最低気温
電機屋のビデオカメラに映る我見ればつくづく情けなくなる
2006年6月2日 商品名を詠む 総評 その2
木曜日課長は遂に戻らないLEGO一片を椅子に遺して
心外だ優しすぎても問題とのどごし生に諭されるとは
縄文の遺跡を出ればKOBELCOの重機が鳥の真似をしていた
2006年5月22日 商品名を詠む 総評その1
君を待つ願い空しく石畳いちごみるくは踏み砕かれた
ばかでかいコンビナートに隠れ住む俺のジッポの汚れたあかり
友達はお前だけさと言ったって何も答えぬホッピーの泡
ポケットの中にナショナル乾電池あの街角に鉄人がいる
仁丹の匂ふ巷に婆ひとり空乳母車押しつつあるかも
血に濡れた袖抑えつつ魔太郎はウオークマンで何を聴くのか
五年前しかけたゴキブリホイホイに或る妖精の白骨屍体
2006年3月21日 卒業 総評その2
黙ってようタイムカプセル埋めるとき昔の骨が出てきたことを
屋上が舞台の僕らの劇団は今日が千秋楽となります
2006年3月14日 卒業 総評その1
制服は売ってしまうという彼女僕にください袖だけでいい
俺たちで世界を変える約束は消える蛍の光とともに
2006年2月27日 音楽 総評その2
迂闊にも校歌を忘れそうになる冷たい橋をバスで渡る日
一年を隔てて君に再会し心臓はうなるベースと化した
人気なき回転木馬の空回りそれでも雨は歌いやまない
今一度錆びたホルンに口づけを中学生の恋の行末
嵐の夜ラヂオを前に起きて居る僕のリクエスト吹き飛ばされて
2006年2月14日 音楽 総評その1
通過作品ナシ
2006年2月2日 家族 総評その2
飛行船見上げる一群の家族父の眼のみが青く輝く
息子らが青い哲学ふりかざす父の背中を一顧だにせず
エロ本にまみれた部屋で独人思う君と家族になる日は遠い
父は単に皮肉吐き出す機械だと思い込むんだ殴らぬ先に
たくさんの父の皮肉がこの部屋を埋めてくるぶし掴み離さず
ひさびさに集ふ家族がそれぞれに桜の下でしばし黙せり
弟の小さな影の輪郭が染みついている敷石がある
「ガリレオになりきれないね二人とも」プラネタリウムに沈む兄弟
ああ家族細かく揺れる陽炎の向こうの影をそう呼んでみる
父さんは欠けた茶碗を前にして何がそんなに不満なんだか
婆さんの墓前に立ったそう僕はもっと優しくならねばならぬ
久々に燗のある夜酔う先に吸い込んどくか親父の小言
長い尾を引けずじまいの彗星が太陽系を家出していく
2006年1月23日 家族 総評その1
ひさかたの月の降らせる雨の下今日は黙する団地の家族
一様に固き顔して並びゐるいくささなかの家族の写真
2006年1月12日 犬 総評その2
君とポチ河原でじゃれる光景を長い橋から見つづけていた
あやまって犬のお尻にぶつかった日に考える媚薬の歴史
2006年1月6日 犬 総評その1
浮き橋に靴下に似た犬がいるそっと進もう湖の春
犬の名のカクテルで酔った夏の日の熱はいつの間に散っちゃったんだ
2005年12月20日 アニメキャラ 総評その2
「ゲゲゲの鬼太郎」
鬼太郎の指示に基づき今日僕は畳の裏に陀羅尼を敷いた
「ヤッターマン」より ドロンジョ
黒猫とマスカレードに出かければドロンジョさまに会える気がする
2005年12月15日 アニメキャラ 総評その1
「オバケのQ太郎」
Qちゃんがやたらまっすぐ飛んだからまずは荷物をまとめておこう
いつになく雄々しく立ったQ太郎魚沼産の米の白さで
「鉄腕アトム」
鋼鉄のロボが涙を零すとき命の意味がまた問われている
「ポパイ」
△缶詰に書かれた太く下手な文字「男は強くなけりゃなんねえ」
2005年11月29日 謎 総評その2
△大好きなあの子のものだからといって彫刻刀を舐めてどうする
2005年11月22日 謎 総評その1
すべり台に濡れて貼り付くブロマイド君は海から来た眼をしてる
この岩が歩きだす日が来ると言うストーンヘンジ案内人は
留守電で「やり直したい」と言われても俺はユウコじゃありませんてば
限りない進化の末に石になるそんな予言は信じたくない
物質の存在こそが謎だという仏画背にした物理学者は
夏の日の水着の君をひたすらにベクトル解析しようとしてた
タロットの「愚者」がこっそり抜け出してギター売り場にやって来ている
△ひさしぶりに友から届いた葉書には「海王星」とたった一言
2005年11月2日・11月10日 気になる有名人
通過作品ナシ
2005年10月25日 本 総評その3
小汚いベッドの下に革命を隠したままで消えたあいつら
2005年10月18日 本 総評その2
背表紙の文字があまたの眼となりて我を見つむる心地するなり
枕元読みかけの本の塔が建ち開かずの扉何を待ってる
文選工はしみじみ僕に言ったのさ活字は意外と重いものだと
果てしない本を拾い読みするように東京という街をあちこち
2005年10月7日 本 総評その1
夢の中欲しかった本に巡り会い取り展げれば頁真っ白
独人旅ブルートレインの灯は消えて本の頁に夜が沁み込む
古本屋の岩波文庫コーナーにチョコレートの匂いたちこめている
古本屋にはじめて本を売ったとき屈辱という言葉を知った
秋の鬱抱え込んでる僕のことを巨大な本がとおせんぼする
エロ本を買いにいくぞと決めて行く街のどこかに火薬の匂い
けがれなき少女の肌に触れるように手に取る本があったっていい
2005年9月29日 スポーツ 総評その2
ランナーの足をくじいた悔しさが夜のアスファルトにわかに溶かす
懸想文書くと決めこの夜にペンがセンチ単位のマラソンに発つ
2005年9月23日 スポーツ 総評その1
たわむれに路上に描いた矢印に沿って走ってくれた美少女
2005年9月12日 ヒーロー 総評その1
「宮沢賢治」
先生は下の畑に居るのだろう偏光顕微鏡がそのまま
「YMO」
YMOくり返し聞けばわかる筈彼らが音の百科事典だ
「名もなきヒーローたちに」
僕たちは変身ポーズ決められずただの大人に成り果てたのだ
紫や蘇芳じゃサマにならないが茶レンジャーならいたっていいぜ
「やなせたかし先生に」
新しい顔に正義の微笑みがこうでなくっちゃあんぱんまんは
「笹公人師範に」
この本は小さく見えるでしょうけど実は巨大な壁なのですぞ
2005年8月31日 ホラー 総評その2
何故だろう買ったばっかのカッターに赤い何かがこびりついてる
ゴミ捨て場「中は見ないでください」と書かれた箱がずっとそのまま
△死んでからゆうに五年は過ぎた筈砂場に灯る三毛の魂
2005年8月16日 旅 総評
旅先で真っ昼間から口にするビールの味の微妙な違い
思いがけず遠くの町に来たものだ目に珍しい切符の模様
思いきり遠くへ旅に出てみたいこの歯ブラシのすりきれる迄
母のこと思って少し泣いていた自分勝手な旅の終わりに
ヒグラシが一斉に僕を急かしだす小さな荷物肩に担げば
おしなべて誰もが旅のしっぱなしジュールヴェルヌの本の中では
夢の中旅する僕はいつだって路面電車に乗ってる不思議
駅のすみ塗装のはげた貨車がある君には昔会った気がする
2005年8月3日 海 総評
△脇役で済まされる筈もなかった海があんなに輝いていたから
2005年7月19日 星 総評その1
出口なき恋に怯える僕にとってムダに大きい今日の蠍座
夏至の日には孤独な星を焼き付けたカメラがひとつ海に沈んでる