切端日記「歌日記」2012年5月

五月四日。友人の誘ひで、弘明寺といふ所に温泉につかりに行つてゐました。サウナに入り、歸りにお酒も飮み、大滿足の一日でした。

五月六日。背廣を着て文學フリマへ。正かな同人誌をいろいろと買ひ込んで來ました。この手のイベントは今迄行つたことがなかつたし、僕は人混みが苦手なので少々不安でしたが、行つてみると會場は和やかな雰圍氣だつたので安心しました。會場では歌人の方にも何人かお會ひしました。

文學フリマは東京モノレール流通センター驛すぐ近くの會場で開催されました。そこへ行く爲に僕は、南武線で鹿島田ー歩いて横須賀線の新川崎へー西大井で降りて大井町驛へーりんかい線で天王洲アイルへ、モノレールに乘り換へ流通センター、といふルートをとりました。しかしこれは、特に西大井から大井町迄が案外遠く、疲れる爲、あまりお勸め出來ません。

五月十二日。この日「みんなの展示場」で音樂會が開催されたのですが、いつもの土曜日の半日仕事の後に行つたら既に終了してをり、打ち上げのお酒だけ飮んで歸つてくるといふ情けない次第でした。

五月十三日。散髪。

五月十九日。この少し前に、有效期限が新しくなつたクレジットカードが送られてきたので、携帶電話料をクレジットカードで拂つてゐる僕は、何か手續きをしなければならないのだらうか?と思ひ、この日携帶電話のお店に行つてみました。しかし、クレジットカードの番號が變らない限りは特に手續きは必要ないさうで、受付のお孃さんに少し笑はれてしまひました。電車賃を損しましたが、まあ疑問點が解消されたので良かつたです。

五月二十日。この日も母と妹と部屋の片付け。その後、飮みに行きました。

五月二十一日。何とかがんばつて早起きして、金環日蝕を見ました。我が立川は曇つてゐて、絶好のコンディションとは言ひかねましたが、それでも雲と日蝕眼鏡越しに圓形の金環を見ることが出來ました。不思議な感動を覺えました。

五月二十七日。五月二十二日に東京スカイツリーが開業となり、そこからふと思ひ出した僕はこの日、千葉ポートタワーに行つてみました。大學生の頃、僕は千葉にゐました。ですから現地に着く迄の道程で僕は懐かしさを感じました。地下鐵東西線が地上に出たところで渡る橋、總武線西千葉驛からちらりと見える母校など、覺えのある風景に再會出來ました。

千葉ポートタワーも初めて行く譯ではなく、確かその學生だつた頃一囘行つたやうな記憶があります。パンフレットを見ると塔の高さは125.2メートルとのことで、東京スカイツリーの634メートルには遠く及びません。それでも地上113メートルの展望室からの眺めはなかなかでしたし、遠くもやの向かうにその東京スカイツリーも見ることが出來ました。

こんな風にいろいろとあつた五月ですが、案外自分の爲に割ける時間が少なかつた爲、少々悶々としてゐたのも事實です。特に題詠百首がほとんど進まなくなつた上に、情熱も涸れてきてしまひました。良くないことです。また今年の五月は天候が不順で、 寒氣の侵入による突風・豪雨・落雷・雹の被害が各地でありました。非常に憂鬱でした。

※以下は例によつて、日付と、實際にその歌を詠んだ日とが必ずしも一致してをりません。

5月1日〜5月5日(反故より)
悲しみを癒す手段を知つてゐる人がうらやましくてならない
あの文字はもう見たくない苦しくて苦しくて今日捨てる紙束
本棚で飼ふ毒蟲に襲はれてシャツも心ももうぼろぼろだ
背を押してくる手がいつも善意あるものと限らぬことを怖れる
電線をぼんやり見てゐるもうこれで俺も終りかなどと言ひつつ
5月6日
空高く寒く點つてゐる星に歸りたいかい、胸の毒蟲
5月7日
壁中の畫鋲の跡に思ひ出す半年前の遠い暴動
5月8日
絡み合ふ鋼の下で生まれたと靴下直しその子は言つた
5月9日
顏がいい人が歌へばいい歌になるつてことで あとはよろしく
5月10日
この顏で戀が歌へる譯がない だから歌ふさ 地獄の歌を
5月11日
をちこちに地の血を吸つて咲く花の激しくあれば春の切なさ
5月12日
成るならば天下御免の馬鹿に成れ小指で山を動かす程の
5月13日
ありふれた地獄の使者と向かひ合ふ澁谷の街は電波に沈む
5月14日
今生では間に合はないと思ふから三十一文字をまた積んでゐる
5月15日
我武者羅ぢやなかつた僕に降りかかる雨も絶對零度ぢやなくて
5月16日
月光に萎れる街のあちこちに句點を打つてうづくまる猫
5月17日
オカルトで大事な日々を棒に振り燃えかすとして生きる僕です
5月18日
Amazonの箱は意外と隙がある 雨よ頼むぞ 降らないでくれ
5月19日
梅雨前のざらつく影を飛び越えて梔子の香が驅けてきました
5月20日
わたくしの馬鹿面濡らす雨粒が氣の毒だとは思ひませんか
5月21日
肩越しに君の鎖骨を確かめて猫でない身の不明を恥ぢる
5月22日
懷かしいネオン消えたが若者はさう簡單に絶滅しない
5月23日
鼻先に腸詰めだつて吊るします闇でくすぶるあなたの爲に
5月24日〜5月26日(言葉遊び)
ハハハハと母は笑はず母子草齒に挾みつつハハハンと言ふ
からからの體絡める唐傘の烏からむしからすみの柄
ここの子の木の實の好みこのわたの好みころころ變るこの頃
5月27日
授かつたこの一言の置き場所が便所の棚でいいのだらうか
5月28日
掃除した壁に理想の馬鹿像をでつかい刷毛で描いてみたいな
5月29日
天からの「これはゲームぢやないんだ」の聲に毆られ伏せる路地裏
5月30日
面影を雲の流れに探しつつ足湯を使ふダム湖のほとり
5月31日
ハタ坊だジョーとか言つて青空の裏に隱れたあいつ、元氣か