題詠Blog2011參加短歌集
ここに掲載する短歌百首は、五十嵐きよみさんが運營するネット上での短歌マラソン企劃「題詠blog2011」に參加して詠んだものです。
- 001:初
- 初霜を踏みまよひつつふくらめる雀の嘴に冬は來にけり
- 002:幸
- 海山の幸もろともに鍋にあり美き(うまき)八洲(やしま)を喰らひ盡くさむ
- 003:細
- 細水(ささらみづ)川藻の緑靡かせて流れさやけき春の野邊かな
- 004:まさか
- いと愛しき(はしき)君をまさかに見しものをなすすべもなき妖怪我は
- 005:姿
- 掃き溜めに姿明るき花ありてさても宴は儚かりけり
- 006:困
- 吹き荒ぶ風をさまらず左義長に寒き我らの困じをるなり
- 007:耕
- 土筆なら休耕田を尋ねよと教へたまひし小さき婆よ
- 008:下手
- 下手なりし鶯の音もこの頃は稚(やや)驚かす程に響けり
- 009:寒
- 寒霞澱みて街は朧なり負くまじ我も我が寫眞機も
- 010:駆
- 我が胸を驅くるものあり愚癡嫉妬恨みやつかみ僞りの經
- 011:ゲーム
- カーテンの向かうに春の光ありゲーム疲れの頭(かうべ)を上げよ
- 012:堅
- 堅氷に足をとらるることなかれ春は笑ひて迎へたきもの
- 013:故
- 持越の眼底痛を憂ひつつ反故となりたる契りを思ふ
- 014:残
- 袋へと投げ捨てらるる殘飯の色新しく悲しかるかな
- 015:とりあえず
- 早技にペンとりあへずベンチへと戻る二壘手僧にも似たり
- 016:絹
- 空高く絹雲伸びて風寒し我が手折るべき紅葉はいづこ
- 017:失
- モテるなど及びもつかず妖怪は失意のままに書籍に沈む
- 018:準備
- 青春は準備不足のままに來て何も殘さず過ぎ去りにけり
- 019:層
- 比較的所得の低き層なれど友とこぞりて酒をば酌まむ
- 020:幻
- 幻のごとき命か日だまりにしづまる墓に酒を注ぎつ
- 021:洗
- 洗ひものつくねあげたる臺所見れば切なきチョンガー暮らし
- 022:でたらめ
- 麓までたらめきわたる深山(みやま)かな若芽をなづる雪解けの音
- 023:蜂
- 悲しみの含有量の高き街見向きもせずに過ぐる蜜蜂
- 024:謝
- 心から謝ることも出來ぬまま判じ物めく床の傷見つ
- 025:ミステリー
- 停電のさなか亂歩のミステリー讀めば背中を傳ふなめくぢ
- 026:震
- 起震車の中で激しく震へをるマネキン…でなく生身の私
- 027:水
- 口々に唱ふる言葉違へども水に祈りを託す我々
- 028:説
- なまなかな辻説法が立ち去れば菫は咲けり何事もなく
- 029:公式
- 速からぬ筆の進みを嘆きつつ※乃公式日の職場に獨人 ※乃公=おれ
- 030:遅
- 「遲れないのはお花見の時だけか」友は櫻を背にして笑ふ
- 031:電
- 街角の電氣仕掛けの幻に律儀に呪詛を返し行くなり
- 032:町
- 新しき町着を見せて行く君を抱く腕あればうとましきかな
- 033:奇跡
- 一行は空にもう一行は地に刻まれたるか奇跡の言葉
- 034:掃
- 掃除など及びもつかず書の山を右へ左へ移す一日
- 035:罪
- 夜毎見る惡夢は罪か奈落より深き所へ落つる思ひは
- 036:暑
- 避暑地など夢なりせめて發泡酒一本の涼いつくしむなり
- 037:ポーズ
- 漆黒のポーズボタンを押したなら畫面いつぱい少女(をとめ)の涙
- 038:抱
- 誰一人抱かずに終るこの身ならせめて晒さむ春の息吹に
- 039:庭
- 眺むべき庭なき暮らしなればこそ思ひ出さるる野邊の草花
- 040:伝
- 傳へ聞く美談は部屋の隅に投げ我は綴らむ妖怪の歌
- 041:さっぱり
- さつぱりを探し求めて晝日中風呂屋の富士に辿り着きたり
- 042:至
- 哭く勿れ皆歸る迄夕空の至る所の入道雲よ
- 043:寿
- 壽量品さへ身につかぬ我なれば祈りの型もくづれがちなり
- 044:護
- それでこそ正しきことと思はるる守護聖人の法衣のほつれ
- 045:幼稚
- たのもしき爆發音を響かせて幼稚園兒の行列が行く
- 046:奏
- 春淺き頃はやうやう芽立ちたる木々の奏づる音を聽きをり
- 047:態
- 感動と態とらしさを履き違へ黒く黴びゆく私の日記
- 048:束
- 味噌汁の具の少なさに安んずる我札束を見たることなし
- 049:方法
- 小賢しく立ち囘れども我が儘は大方法に敵はぬものぞ
- 050:酒
- 祭禮の行燈のもと腰を据ゑこの名に恥ぢぬ酒飮みになる
- 051:漕
- いにしへの阿漕が浦にいさなとる者の罪など繼ぎたる我か
- 052:芯
- ペンタブの芯は磨り減り畫面にはいとしどけなき少女の姿
- 053:なう
- 高き枝に憩ふ小鳥よなうごきそ我が寫眞機は武器にはあらず
- 054:丼
- 丼の底に感謝の言葉ありおかげで我はまた太りたり
- 055:虚
- 法音は遠く虚空に響くのみ爭ひ絶えぬ我らの世界
- 056:摘
- この憂ひ摘出せむと酒を酌む酒は濁りのあるもまた佳し
- 057:ライバル
- もののふのごとラガーマン突進しトライバルカン砲の勢ひ
- 058:帆
- 補陀落を近くに手繰り寄する爲帆のデザインのどこかに青を
- 059:騒
- 野に蟲の騷ぎを聞けば思ひ出が黒き魔となり押し寄するなり
- 060:直
- 愚直たれ多摩川岸に點々と繁る名もなき灌木がごと
- 061:有無
- カンフーを學ぶ者等の彼方から有無を言はせぬ建機の聲が
- 062:墓
- 縁ある人守りつつ影を成し盆に立ちたり墓地の老松
- 063:丈
- 丈足らぬ言葉なれども七夕の願ひさやけく下げられてあり
- 064:おやつ
- おやつには間に合はぬとは思へども君の家迄自轉車を漕ぐ
- 065:羽
- 早乙女の羽二重餅をねぶりつつ戀のことなど思ふべらなり
- 066:豚
- 赤ら引く豚の乳首の竝びにも知るべくあらむ造化の工(たくみ)
- 067:励
- かくあれと思ひ勵みし日もあれど今飮む酒の苦さ一入(ひとしほ)
- 068:コットン
- コットンに埋もるる君は君が持つまことの力知らずあるなり
- 069:箸
- 鐵箸を共に使ひし人もまた荼毘の煙となりにけるかな
- 070:介
- 媒介變數(パラメータ)變へれば我もぎごちなき木偶から人に成り變はれるや
- 071:謡
- うとうとと眠氣を誘ふ地謠を邪魔して叫ぶ鼓は何ぞ
- 072:汚
- 汚くも醉ひたりされど友どちのネクタイの柄微動だにせず
- 073:自然
- 人間は猛き自然を思ひ知りなほも再び立ち上がるべし
- 074:刃
- たのもしき出刃包丁と母の腕思ひつつ寢るビジネスホテル
- 075:朱
- 新刊を告ぐる朱墨のいやらしさ避け懷かしき繪本の棚へ
- 076:ツリー
- この度はダブルのスーツリースして惡者ぶつて戸を叩くなり
- 077:狂
- 恨めしき身勝手者を忘れむと狂氣をラムに溶かす夜なり
- 078:卵
- 色つやの寶石に似る昆蟲の卵葉裏に付くは恐ろし
- 079:雑
- 雜草の小さき花咲く野邊行けば鼻歌少し高くなるなり
- 080:結婚
- いち早くブーケ受けしが今もなほ結婚せずに我はをるなり
- 081:配
- 書に氣配あらばと數多枕邊に積めども歌仙黙したるまま
- 082:万
- 廢屋に錆の浮きたる萬力が空氣をつかむ笑ふがごとく
- 083:溝
- 溝萩のけぶるがごとく咲く中に拙き戀を見付くる秋ぞ
- 084:総
- 我はこの身を恥づることさへ難かりき總本山の堂暗くして
- 085:フルーツ
- このナイフルーツは遠く西方の囘教王に發すと聞きつ
- 086:貴
- いにしへの魔法籠めたる貴石もて開く扉はいづくにあらむ
- 087:閉
- やはらかく閉ぢたる瞼觸るるごと名も知らぬ實を撫でて行く道
- 088:湧
- 湧水の瘤なす程の勢ひを飽かず眺むる散歩の途中
- 089:成
- 月光に成敗されて自轉車で下る道端白萩流る
- 090:そもそも
- 汝よ聽け歌はそもそも心をば詠むべきものぞ怠るなゆめ
- 091:債
- ささやかな負債のあれば毎日は悲し翼々選ぶ安酒
- 092:念
- 今一度無念の人の窗に置く矢車菊に虻よたかるな
- 093:迫
- 迫り來る雨雲を避けああここはいつも魚の旨い居酒屋
- 094:裂
- あの日より四分五裂の樣相を呈する國の住み難きかな
- 095:遠慮
- 傳へ聞くかの佛國土かの久遠慮れば心安しも
- 096:取
- 用水の取水口よりやや離れ落つる水見つ立ち去りがてに
- 097:毎
- この胸の日毎にかすれゆく決意叩き直してまた歌を詠む
- 098:味
- 足下に見るに悲しき書の雪崩あれば味氣もなき暮らしかな
- 099:惑
- 泣く人も己が正義に醉ふ人も皆このひとつ惑星の上
- 100:完
- 未完成交響樂をセロで彈く賢治の背中悲しく廣く