題詠Blog2010參加短歌集

ここに掲載する短歌百首は、五十嵐きよみさんが運營するネット上での短歌マラソン企劃「題詠blog2010」に參加して詠んだものです。

001:春
かたくなな風のよぢれがほどかれてこぼれはじめた春の粉末
002:暇
手拔かりはないか休暇は明日からだ下着の色の吟味はしたか
003:公園
公園の砂場に魔法陣を書き猫の國への扉を開く
004:疑
神樣を疑ひ乍ら生きてきた證しか今朝の眼の充血は
005:乗
濕つぽい風一條を乘り捨てた烏が高く吠えて夜明けだ
006:サイン
天からの無言のサイン受け入れて悲しみひとつ捨ててしまはう
007:決
「それだからお前は駄目だ」聯呼する隣の席の未決囚面
008:南北
鳥たちと一齊に和南北を向き背中から來る春を感じる
009:菜
珍しい野菜を買つてきたものの炒めるだけぢや駄目のやうだな
010:かけら
滿月に呼びかけられて立ち止まるブリキ細工を賣る店の前
011:青
地圖を開く 青い路線の先つぽに君住む街が記されてゐる
012:穏
「穩やかさ」を固めたやうなおもむきの首の短い犬のありやう
013:元気
枕頭にエロ本がある毎日さ 僕は決して元氣ぢやないよ
014:接
今日もまた間接税のかたまりをくはへ乍らの亂讀暮らし
015:ガール
いにしへのコールガールの廣告を汚い壁に貼れば春雷
016:館
萬華鏡博物館のポスターを盜む勇氣があつた友達
017:最近
最近は鬱 さう言つてごまかせば冷たく歪む君の唇
018:京
平安京エイリアンから今迄の無駄な時間を取り返せるか
019:押
押しかけてきた春風よぼろぼろの俺の鞄を君も笑ふか
020:まぐれ
思ひきりまぐれ當たりの空を舞ふ凧(いかのぼり)見る旅のつれづれ
021:狐
うづくまる狐の下に庇護された世界?―君の故郷はそこか
022:カレンダー
五年間貼りつ放しのカレンダー あの約束も果たせぬままに
023:魂
魂を吐き出すやうな欠伸する俺と猫との聲なき對話
024:相撲
冷笑家たちに紛れて今日もまた獨り相撲の一日だつた
025:環
友達よ環境保護に名を借りて不樣な銃を持つて行くのか
026:丸
丸出しの子等が驅けゆく川縁に危なつかしく停める自轉車
027:そわそわ
なあ猫よ庭石菖が咲く迄はそはそはしてもいいんぢやないか
028:陰
それはもう闇とも言つていい程の古い辛夷の木陰に潛る
029:利用
流し目の女を口説く爲だけに利用されてゐる經濟理論
030:秤
夕暮れに秤の上の牛肉が撓ふを見れば心浮き立つ
031:SF
SFの舞臺のやうな團地裏拔ければ芒一面の原
032:苦
覗き込む 二度と苦しむことのないその人の顏を 悲しい顏を
033:みかん
天使から遠く離れて僕たちは勵みかんがみ生きていくのみ
034:孫
兩親に孫の顏など見せられぬモテない奴で本當濟まない
035:金
金文字の「福」がさかさに貼られてゐる店で飮み干す天地玄黄
036:正義
たこやきを頬ばり乍ら眺めてゐた色とりどりの正義の味方
037:奥
本棚の奧は墓場だ青春の愚かな罪が眠り續ける
038:空耳
空耳に苦しめられる 君はもう僕を許してくれないのかな
039:怠
戀愛を怠け續けて數十年妖怪として僕は生きてゐる
040:レンズ
雜踏とののしり聲を避ける爲耳に押し込む「フレンズ・アゲイン」
041:鉛
この街に鉛の雨が降る前にとりあへずでも手紙を書かう
042:学者
道學者たちが居竝ぶ壇上に蠅が止まつた 譯知り顏に
043:剥
唐突に塗裝の剥げたピンボールもろとも消えたゲームセンター
044:ペット
カーミットのマペットくにやり置かれてゐる風情に君を思ひ出したよ
045:群
車窗から麥の群舞を眺めつつ忘れ去られた港へ向かふ
046:じゃんけん
じやんけんを久しくしない それはもう獨人で生きてゐるといふこと
047:蒸
顏のある蒸氣機關車たちの本竝ぶ書棚に置いてきた物
048:来世
前世とか來世を言ひ譯にしないで馬鹿でいいぢやん夢を見ようぜ
049:袋
みつしりの布袋葵に埋もれてゐる鯉の迷惑さうな顏つき
050:虹
手作りの小ぶりな虹を追ひかける無邪氣な聲の彈に倒れた
051:番号
もみあげがどうかしてゐる先輩が緊褌一番號令かける
052:婆
pixivを埋める婆娑羅繪くぐり拔けやうやくひとつ愛を見つけた
053:ぽかん
みちばたですかんぽかんでまつてゐる春のいつぱい詰まつたバスを
054:戯
温い風戲(そば)へる中に朴の花咲く天人の御座の如くに
055:アメリカ
アメリカに鈴をつけたい人々が議事堂の燈を消さないでゐる
056:枯
木枯らしを栞代はりに讀む本で今二人目が死んだところだ
057:台所
酒壜のぐるりと竝ぶ臺所に座つて月に嘲られてゐる
058:脳
腦の中文字が消えたり結んだりしてゐる淺い眠りの夜だ
059:病
この時も自分探しに名を借りた病みたいなものなんだらう
060:漫画
失戀はごまかしきれるもんぢやない漫畫みたいな身振りをしても
061:奴
美しく生まれた奴の特權を剥奪したい テレビを毆る
062:ネクタイ
ものわかり良いふりをしてネクタイを緩めるときの胸の淋しさ
063:仏
雨果てて佛足石に溜まる水舐める蚊もゐる古刹を巡る
064:ふたご
ふたご座を切り取り乍ら飛ぶ鳥よセント・エルモの火は見えるかい
065:骨
股覗きすれば全てが地にへばる夏は誰もが骨拔きだから
066:雛
感動といふあやふやなものになど氣をとられるな雛鳥たちよ
067:匿名
匿名の寄稿を決して許さないエロ本「大海賊」の傳説
068:怒
屋根の上忿怒の如く咲く花にやたら大きな蛾がとまつてゐる
069:島
神の住む島へと續く長い橋 人を怖れぬ海鳥がゐる
070:白衣
人の爲生きない僕を叱咤する白衣觀音像の立ち樣
071:褪
君と僕と褪せたネオンの思ひ出がビルもろともに消え去つてゐた
072:コップ
コップ酒十數秒で片付けて出ればここらは銀河のへりか
073:弁
弄ぶべき弁ひとつ見つからぬ銀河のへりで戸惑つてゐる
074:あとがき
少チャンはマカロニほうれん荘とかが秀逸だつたあとがきデカも
075:微
顯微鏡は小さい乍らどこかしら「考へる人」めいてたたずむ
076:スーパー
スーパーのチラシのうなぎ切り拔いて耐へろ今宵のこの淋しさを
077:対
燒け焦げた熱電對が竝ぶ部屋 戀は危險にならざるを得ず
078:指紋
印畫紙の指紋もいつか被寫體のあなたとともに色褪せてゐる
079:第
酒を飮み次第に馬鹿になる僕に振つてくれるな詩の話など
080:夜
夜が明ける前にやうやく一首だけ出來た短歌のそのうすぐらさ
081:シェフ
「シェフなのに葉卷を吸つて大丈夫?」バーで結局言へなかつたこと
082:弾
糾彈の聲をいやしく思ふとき心のあざが黒ずんでいく
083:孤独
限りない孤獨とともにスプラッシュ・マウンテンへと乘り込む私
084:千
惱んだり悲しんだりの毎日が千年先も續くのならば
085:訛
この部屋の半分はある妖怪よ お國訛りで一言どうぞ
086:水たまり
水たまりだらけの道を歩くやう あまりに恥の多い人生
087:麗
綺麗事ばかりラジオに滿ちてゐる 要は不景氣なんだな今は
088:マニキュア
マニキュアの壜がざらざら降つてくるやうな街角 私は獨人
089:泡
立ちのぼるビールの泡を目で追つて不滿は多分これより多い
090:恐怖
永遠の恐怖の中に生きるのだお前も俺もこの國さへも
091:旅
方違へ信じる譯ぢやないんだし旅に出るなら次こそ北へ
092:烈
烈日も果てて普通に道端に花咲く秋に色を塗る風
093:全部
バッグにはペットボトルが五、六本 準備萬全部活に行かう
094:底
底冷えの頃にはじめた一文が夏になつてもまだ仕上がらず
095:黒
高僧が墨黒々と書き上げる希望の持てぬ「今年の漢字」
096:交差
交差する紫煙の螺旋戀愛を微妙に避けるバーの人々
097:換
換氣扇きれいなままで次の部屋それは贅澤なのかどうだか
098:腕
腕ならし氣分で書いた原稿に赤字直しが百數十箇所
099:イコール
極太のペンであわてて塗りつぶす「僕」と「狂」とを結ぶイコール
100:福
この俺も福田繁雄に憧れた割にはあまり愉快ぢやないね