題詠Blog2009參加短歌集
ここに掲載する短歌百首は、五十嵐きよみさんが運營するネット上での短歌マラソン企劃「題詠blog2009」に參加して詠んだものです。
- 001:笑
- 忍耐は安からざれど尊しと翁の面のくすんだ笑ひ
- 002:一日
- 一日をポルノで全て費やして畜生!汚れたままの遺傳子
- 003:助
- 自分つて奴を半分塗りつぶす酒と莨の助けを借りて
- 004:ひだまり
- 天空に淡い梵字を書いてゐた燈を見失ひだまり込む夜
- 005:調
- 調度類が少ない割に狹い部屋 本、ゴミ、そして俺自身が邪魔
- 006:水玉
- 安つぽいメンコに刷られた水玉の版ずれにさへ未來があつた
- 007:ランチ
- 丘の上お子樣ランチの旗を立て君を待つその華奢な手足を
- 008:飾
- 飾り氣のない酒を買ひ飾り氣のない人と飮むこれでいいのだ
- 009:ふわふわ
- ふはふはをみんなが分ち合へたなら誰が眠りを怖れただらう
- 010:街
- 少しづつ繁華街にも慣れようと思つて買つた切符が折れた
- 011:嫉妬
- モテようとしないで嫉妬ばかりするそれは卑怯なことぢやないのか
- 012:達
- 最近はメタリックのもあるのかと驚かされる達磨市の日
- 013:カタカナ
- カタカナの札ぶらさげて保存樹は今年やうやく元氣になつた
- 014:煮
- 時が來て地獄の釜に煮られるのは俺かお前かどつちだらうな
- 015:型
- 型通りの儀式を濟まし歸る君 もう觸れられぬその細い腕
- 016:Uターン
- 指を鳴らし二十世紀にUターン ちやちなヒーローが僕を待つてゐる
- 017:解
- 暴動を夢みて必死にこらへてゐるマグロ解體ショーの人々
- 018:格差
- 隣席の驛辨に格差を感じ乍ら僕はカロリーメイトをかじる
- 019:ノート
- 分別を恃まず生きる思春期のひとりひとりが持つデスノート
- 020:貧
- この指の億でもきかぬ惡業が貧乏籤をまた引き當てる
- 021:くちばし
- 片假名に何でも略す御時世にくちばしる中規模の眞言
- 022:職
- 管理職に頭を下げる俺は今提婆達多にすらなれぬまま
- 023:シャツ
- ナイーブが似合はぬ顏と知つてからさらに粗雜になるシャツ選び
- 024:天ぷら
- いまひとつのりが惡いと指摘され鼻に突つ込む海老の天ぷら
- 025:氷
- あの夏の製氷室の慘状を笑ふあなたが去つて久しい
- 026:コンビニ
- 出來るだけうなだれてみるコンビニの痩せた油の香につつまれて
- 027:既
- 現代に既に通用せぬ本に挾まれてゐる蚊の二三匹
- 028:透明
- 朝が來て半透明の生物を纏ふあなたが他人に見える
- 029:くしゃくしゃ
- 夏の陽に優しくこげた女の子くしやくしやになる迄遊びなさい
- 030:牛
- 牛の横に立てば自分の大きさがあやふやになるすがすがしさよ
- 031:てっぺん
- 悲しみの殘りは風に任せようと給水塔のてつぺんに立つ
- 032:世界
- 健やかに世界はあれかしこの店の秘傳のタレが腐りだす迄
- 033:冠
- 黄昏に花冠は捨てられてあゝ良かつたね春はまだ續く
- 034:序
- 旅先で序で乍らにおとづれた店の珈琲旨い悔しい
- 035:ロンドン
- ロンドンの「バー・シャーロック・ホームズ」に凹んだ金時計を投げ込む
- 036:意図
- 積年のうらみつらみの捨て方を鋭意圖解にしてゐるところ
- 037:藤
- 藤棚の下で莨をふかすのが贅澤だつた日を忘れない
- 038:→
- 山頂の方指し示す→はたのもしきかな謝して歩まむ
- 039:広
- 緑濃き高貴な人の廣い家に火を放つのが妥當かどうか
- 040:すみれ
- 驛からは東北方へ十分程今もありますみれん横丁
- 041:越
- 魂の在處はどこぞと訊ぬれば越中褌開く青年
- 042:クリック
- 眞夜中にクリックひとつで飛んでいく泉のそばの欲望の國
- 043:係
- 厄を過ぎ遂に哀愁係數が頭頂部迄及びはじめた
- 044:わさび
- 納豆にわさびを入れる冒險をしようよ 夏が終つてしまふ
- 045:幕
- 放課後の音樂室の暗幕に隱れる遊びの眞實は何だ
- 046:常識
- 常識は電車の中で崩れていく僕の荷物も韮ばかりだし
- 047:警
- 憑き物が落ちたと君の一言は思へば警告だつたのだらうか
- 048:逢
- 部屋中に逢魔が時を引き延ばしあがた森魚を歌つてみせる
- 049:ソムリエ
- ソムリエを頼むことなどなき日々も芋燒酎を煮ればうれしも
- 050:災
- 勞働は災ひといふ信念をくつがへせるかこの晴れの日に
- 051:言い訳
- 言ひ譯で成り立つてゐる人生が腐臭を放つ會議室内
- 052:縄
- 月曜のひどいメンタルヘルスぶり繩を買ひ込む氣にもなれない
- 053:妊娠
- 觸るだけで妊娠するといふ像の表情がもうよく判らない
- 054:首
- やめとけよ首狩族の研究は興味本位に讀むもんぢやない
- 055:式
- 式神が放たれたまま歸らない月蝕はもうすぐといふのに
- 056:アドレス
- シヨウウインドウひとつひとつに滿ちてゐるサマアドレスの無茶な輝き
- 057:縁
- 逆縁を感謝するには程遠く今日も社長と睨み合ふ僕
- 058:魔法
- とりどりのスプレーで書き毆られた魔法の言葉だらけの地下道
- 059:済
- エロ本の塔に四方を圍まれて救濟される日などは來ない
- 060:引退
- 引退と暴露本とのカップルにはもう飽きたよと抛つ新聞
- 061:ピンク
- 眞夜中にピンクグレープフルーツを斬つてにやける惡い習慣
- 062:坂
- 容疑者の名前が聯呼される度我が名を「坂井」に變へたくもなる
- 063:ゆらり
- 水底のゆらりゆらりの風景に會へた今年の夏を納める
- 064:宮
- 宮の前帽子を取つて禮をしてここで弱さを全開にする
- 065:選挙
- あきらかに怪しい選擧廣報の手書きの文字の達筆なるかな
- 066:角
- どこで吹く角笛なのか 自轉車を停めた途端に秋が來てゐた
- 067:フルート
- 廢工場の破れ屋根から見えるのはかすかに黒いトカレフルート
- 068:秋刀魚
- 突き刺さりさうな秋刀魚を買つてきた 今夜この部屋はロンドンになる
- 069:隅
- 古本を部屋の隅へと追ひやつて作る寢床はいびつな四角
- 070:CD
- 鳥除けのCD下がる庭先に鷄頭咲けば暑苦しきかな
- 071:痩
- レオパレス痩せた大地に建ち上がり隣に移動便所が寢てゐる
- 072:瀬戸
- 罐麥酒一個で醉つてしまつたか?「てんや・わんやの瀬戸はどつちだ」
- 073:マスク
- 「逃げるのか」聞き捨てならぬその言葉にロビンマスクは背廣を脱いだ
- 074:肩
- 肩書きで飾られた席を立つときに男は大きなため息をついた
- 075:おまけ
- 自殺せずここ迄來たんだあとはもうおまけみたいな人生だらう
- 076:住
- 人間の屑が數多の屑とともに住むこの部屋に(も)そよ風が吹く
- 077:屑
- 屑籠を倒しあわてる横顏もいとほしかつた それが今では
- 078:アンコール
- もう一丁ヤケなアンコールを叫び昨日や今日や明日を捨てよう
- 079:恥
- 恥づかしい雜誌買ふのも堂々と!袋は斷わる、だつてエコだし!
- 080:午後
- 職をなくしひるのプレゼント見たあとの午後はやたらと長くて困る
- 081:早
- 早々とあきらめた夢ばかりだと手帳を開き苦笑ひする
- 082:源
- 水源を荒らす奴らを許さじと今夜ばかりは本氣の野獸
- 083:憂鬱
- 休日の血は憂鬱を運ぶもの 晝寢の夢は妖怪ばかり
- 084:河
- 河原での話はやがて逸れ加減そして激しく飛んでいくファール
- 085:クリスマス
- 獨人きり靜かに過ごすクリスマスに冷えたラジオが輝く刹那
- 086:符
- 冬が觸れはじめた森でふと思ふ四分休符は蓑虫に似る
- 087:気分
- 泥道をほとんどヤケで驅けていくまるでジャクソン・ポロック氣分
- 088:編
- 混迷の編輯會議拔け出して見上げた空にオリオンが立つ
- 089:テスト
- テスト用鉛筆選ぶ暇があればもつと勉強すればよかつた
- 090:長
- 遠い日に長廣舌は納められ以來世界は暗いまんまだ
- 091:冬
- 電飾の裏に囘りてライターを振れども點かぬ寒き冬なり
- 092:夕焼け
- 思ひきりがつかり出來る時間帶少しつぶれた夕燒けを見よ
- 093:鼻
- 年をとり白い鼻毛が増えはじめモテ期來ぬまま死ぬさだめかと
- 094:彼方
- 彼方への思ひを綴る物語まだ書きかけのままここにゐる
- 095:卓
- 散らかしておく癖まるで治らずに卓上○○すらも買へない
- 096:マイナス
- ヤマヂキテアマネクアメニウタレレバカタレハスマイナススベモナク
- 097:断
- 「エロ本を斷つ努力こそ重要だ」いつ書いたんだ?こんな貼紙
- 098:電気
- 樣々な電氣仕掛けの部屋の中芋をかじつてゐるだけの僕
- 099:戻
- 世の中を憂ふふりから自室へと戻つてはまるヴァーチュアルゲーム
- 100:好
- さつき迄好みぢやないと思つてゐた歌が輝きだした 出かけよう!