Sparkling Blitz 〜短歌80連発〜

あ行
青空に空気の綱が見えているどこ迄伸びて何を曵くのか
朝ごとに信じるものを取り替えるそれも案外才能かもな
あの人にうれしい話聞かせたい地ベタを這ってばかりじゃダメだ
あの人はこの世を去ったあとでさえ「自我偈」ひとつで千年生きた
油色の嫌な眠りを振り捨てるあっ太陽だすごく大きい
甘栗がうまく剥けたら喜ぼうみんな幸せになれるといいね
暗黒をまとったままで夢を見る本当は僕はそれがやりたい
一杯のお湯と鎮咳去痰剤冬よそろそろ去ってくれないか
今一度光る観覧車の下へ雑な祈りを捨てに走ろう
イメージを振り払おうともがいてみるこんな暗さはもう沢山だ
ウェルテルのように怠けて日を送る抽斗に拳銃は無いけどね
落ち込んでここが勝負のつけどころさあペンを取れ書け身悶えろ
か行
開発から取り残された細い路地で明日を夢見る野球少年
風が今星座を毀つ愚挙に出る僕はオフィスで無視を決め込む
風も止み冴え冴え晴れたこの夜は月の音さえ聴こえてきそう
紙の香の甘さ苦さを識ろうとして図書館通いしてたあの頃
昨日より醜い顔をしているなあヒゲでも剃って早めに寝るか
君と僕の最終回は呆気無く涙の出番もありえなかった
君にもし触れられたならと願うときまえぶれも無く鎖骨が軋る
君の髪は黒くなおかつまっすぐに小さな頭蓋を荘厳している
君を見ると肩をキュッとかしたくなるけれど僕には許されるのか
給水塔照らし小さく光る星独り居るのは淋しかろうに
草めいた香りを引いて走ってく子供達からオーラが届く
口先の「自然主義」など蹴倒して見よ東京に朝日が昇る
悔しさを鞄に詰めて辿り着いた瓦礫の丘に北斗屹立
くりかえす自嘲は単に悪い癖ふりきれ白いシャツの力で
月光の下今一度読み返す君が確かに居る十二行
この僕がどんなに鬱であろうとも回り続ける地球は偉い
この星の無限のクロスリファレンス僕らは何で出会えたんだろう
この街にまた新たなる鉄の影種落ちる隙有りや有らずや
「この道は僕らの街の背骨です」そう言い乍ら花を植える人
さ行
鎖骨から意味の通らぬ叫び声やっぱり僕は間違えたのか
ささやかな恋を捨ておかなくていいからせめてそこから世界を歌え
さしのべた腕が小さな橋になった世界はむしろここにはじまる
さっきから文句ばっかり言ってますがあんたそんなに清いんですか?
自分なんか信じてどうなるってんだろう?人と結ぶ手持ってるんだろう?
宗教に駆け込む前に考えよう人はそんなに嫌なもんだろうか
小説を呼んで血を濁らせるよりは雨に叩かれ泣くもまた良し
人生をただのパズルにしないよう少し不気味を導入してみる
心臓と脳という計器によれば君の魅力は測定不能
彗星にコートを着せてやりたくてラジオかざして夜道をぬける
ステージの上に現われ出でたるは喉に嵐を抱えた男
砂浜で壊れた椅子が鳥を載せ風に解かれる日を待っている
砂浜に陀羅尼を書いて寝転がる慈悲ある波のささやきを聞く
税金はうまく使えばすばらしいシステムだからお願いしますよ
そこの角で硝子を手渡されたけどこんな破片で虹が買えるの?
「その道を行くなら行くで覚悟せよ」エノコログサがまとわりついた
た行
大変だ賢治のセロが盗まれたああ俺たちが苦しむ番か
黄昏に僕ら意味なく土星ごっこ子供時代の変な思い出
誰にでも恋人いるのが前提か?おしなべて、歌、腹立たしいぜっ!
鉄の手がいのちをしめだそうとするそんなとき何ができるんだろう
鉄の町を赤と黒とに染め抜いて屋根に突っ立つ夏の電撃
掌に「意気地」の文字を頑なに握ってるかのような赤ちゃん
東京は何でもあるよ恋だってもっとも僕には関係ないが
な行
流れ星デパートの屋根そして月不思議ばかりがはびこる今宵
なぜだろう汐の香りが胸の奥で「進化せよ」とささやきかけるんだ
似たような川をいくつもわたりつつ列車は君の街に近づく
日曜日河原の草に座り込む僕をくすぐる「バッチこーい」の声
人間に神の言葉は読めやしない嘘つきばっか多すぎるよな
ぬけぬけと君を襲った杉花粉見えない敵とは戦いづらい
ぬるい空に守られている春の丘に佇立する鉄と機械と僕と
脳内のアホな回路を総動員勝った負けたじゃない物語
は行
春を告げる椿の花が上質の砂糖の香りまき散らしてる
日時計の影は進むに任せよう心の紐をちょっと緩める
皮肉屋になったと言われたくなくてこの歳でまだ夢を見る俺
忘却も恐れることも許さずに春の嵐が僕を殴った
放っとけよいつかは花も咲くだろうそう言い捨てて雨が立ち去る
ま行
三日月を支える発条が切れたから今日は想いを弄ばない
湖の調律を終え西へ行く風の姿を見送っている
見なれない星座に怯えたつ僕をヘッドライトがはりたおしてく
みんなして空を目指して走ってこう高い濃度の虹が出たなら
目の前にあって見えないものがある空気電磁波ラブ&ハッピー
もっとうまく話せるようになりたかった妬みの前に人は無力だ
森に来た普段は気づかないけれど空気って本当すい飽きないね
や行
憂鬱をとかした水をイッキ飲み毒を喰らわば皿迄ってか
UFOを探しに行った友からの何故か赤い字で書かれた葉書
夕焼けにただれた空に星ひとつこらっうつむくな祈るんなら今だ
「ゆとりなんかある訳ゃねーよバカヤロウ」なのに今夜も今夜も俺は…
欲望がもっともっとと叫ぶのをなだめる風がひ弱に吹いてる
予報より少し遅れて晴れた空あんな星座に覚えはないが