切端日記「歌日記」2012年1月
下記の1月1日の項に記してあります通り、歌日記をつけることを思ひ立ちました。2012年より、切端日記は、この歌日記形式に移行しようと思ひます。366首を完遂出來るかどうかは、正直言つて自信がありませんけれども。
2011年12月5日から12月31日にかけては、何もしてゐなかつた譯では勿論なく、記録も一應殘してありますが、後で日記に付け加へられるかどうかは判りません。
- 1月1日
- 歌日記なんて平凡だなあ、と思ひ乍ら。そして、果たして366日を完遂出來るかどうか、激しく疑ひ乍ら。
- 頼りない誓ひであつた なめくぢのやうに融けていく夢のあちこち
- 1月2日
- 實家へ。醉ひました。そして僕は親不孝者。
- 「夢を持て」人は言ふけれど金のない中年はただ酒を飮んでゐる
- 1月3日
- 今日でお正月のお休みも終りです。
- そのことが僕を悲しくさせます……それにしても、二十一世紀にもなつて、人類がまだ勞働してゐやうとは、正直意外なことでした。
- 鳥でないことを悔やんでゐる人に雲を一片千切つて贈る
- 1月4日
- 久しぶりの職場には、仕事が山積み……。
- 屠蘇拔けた體持ち込む職場にはありもせぬのに鑢の匂ひ
- 1月5日
- 忙しくなりさうな豫感。そんな中でも、短歌の材料を探して、僕は耳を澄ませ、そして頭を掻き毟る。
- 褒めたつもりが皮肉と受け止められてしまつたやうで、己の徳の無さを恥ぢます。
- ユーモアを解せむとして瀧行に赴く人は間違つてゐない
- 1月6日
- 九星の占ひが當つてしまひさうで、何だか嫌な氣分です。
- 綴るべきは本當の景色 不垢不淨不生不滅が判らなくても
- 1月7日
- 改めて、宮澤賢治さんの短歌を讀まうと思ひ立ちました。
- 須彌山の守護の化身か信號の上に止まつて見下ろす烏
- 1月8日
- 月曜に休日を持つて行く「ハッピーマンデー法」、あまり良いものと思はれません。特に成人式は小正月である一月十五日に行はれることに意味があつた筈。明日は、現行の暦の上での成人の日です。
- 酒を飮み税を納めてゐるけれどちやんと大人になれたかどうか
- 1月9日
- やはり俳句は嫌ひです。
- 今服を脱がせてみたら君の腕は透明だらう そんな寒さだ
- 1月10日
- 例へば、風邪を引いたり、すごく忙しくなつたりしたら、一日一首詠むことが不可能になるんぢやなからうか……まだ始めて十日だといふのに、もうそんな心配をしてゐます。
- 惡い血を浴びつつ昇るお月樣にガーゼを當ててあげたいのです
- 1月11日
- 少し混亂してゐたやうです。
- 祭には暴力があるそれを見て淋しく笑ふ神樣がゐる
- 1月12日
- 職場で聽いてゐるラジオはJ-WAVEに局固定、お晝の番組の案内役は杉山ハリーさん。最近、すつかりラジオ的にこなれてきました。やはり毎日やる、といふことは強みになります。……と、このまとめ方は我田引水に過ぎるかも?
- 中年はインキの切れたボールペンみたいなものさ それでも書くのさ
- 1月13日
- 深夜、悲しみを抱へ乍ら、また自分の至らなさを恥づかしく思ひ乍ら、ウェブから電報を送る操作をしてゐました。
- 久しぶりに讀む壽量品 昔から閊へるところずつと同じで
- 1月14日
- 昨日の歌は、その性質から、ツイッターに流すことは控へました。
- 酒を飮みました。しかし氣持良く醉へなかつた。
- やはり後ろめたく思つてゐるのでせうか。とりあへず、明日を待たう。そして、謝らなければならなくなつたら、きちんと謝らう。
- 鐵橋にいきなり強い風が吹き俺は誰でもなくなつてゐた
- 1月15日
- 日曜日は、長いやうな、短いやうな。原稿も、進んだやうな、進まなかつたやうな。
- 百人のEPOに歌つてほしい程の眞つ暗闇を拔けて來ました
- 1月16日
- 上司とは、普段は有難く、時に激しくむかつくものであります。
- ああ君よ僕を見下すならそれでいいから高く高く飛び去れ
- 1月17日
- 今から17年前のこの日の早朝、阪神・淡路大震災が發生しました。しかし、それに乘つて詠むことは避けたかつた。
- 屋上の手摺の錆も穂のやうに見えるこの日は光だけ春
- 1月18日
- 讀むべき本が増えました。混亂もまた、増えました。
- 顏の佳い同級生を思ひ出し映畫祭から逃げて歸つた
- 1月19日
- 「歌日記」は、基本的にその日に詠んだ歌を書いていかう、といふ考へですが、早々と禁を解いて、少し前のストックから出します。
- 春の花百科事典で壓しつぶす技を絶やすかiPad 2
- 1月20日
- 雪が降りました。それとは全く關係なく、僕はまた自分の至らなさを思ひ知つた譯です。
- 窗の外によの字りの字を描きつつ淡く流れる東京の雪
- 1月21日
- 夜に飮み會があるので、急いで詠みました。
- 地獄の名みなそれぞれにおそろしく臛臛婆虎虎婆は字さへおそろし
- 1月22日
- 日曜日はペースがつかみづらい……自轉車の修理をお願ひしに行つたり、食事をしたり、本を讀んだり、文章を書いたりしてゐた筈ですが、どうも何もしてゐないやうな印象が……。
- 宇宙船一臺分の情報が蕾の中に疊まれてゐる
- 1月23日
- 仕事にはどうしても「騙し合ひ」の側面がつきまとひます。楽園を追はれ、勞働をしなければならなくなつたアダムとイブの、聖書の物語……これにはどうも深い眞理が隱されてゐるやうな氣がしてなりません。
- 夜、大雪に。
- ゼラチンで北極光を再現し君の喉へと流し込みたい
- 1月24日
- 短歌をやつていくことには、妙な「板挾み」感があることに氣がつきました。いづれ掘り下げていかないと。
- この日には「問題發言」をしました。
- 電線にぬろりと絡む雪の蛇を襲ふ烏の爪の鋭さ
- 1月25日
- やはり、歌集のひとつも出ないと(出さないと)、歌人とは名乘れないのかしら。
- 報いなら受けてゐるさと横を向く君の頬にはまだ薔薇が咲く
- 1月26日
- 歌日記と言ふからには、その日詠んだ歌を書いていかう……と思つてゐました。しかし、その結果として、あまり出來が良くない歌が竝ぶやうでは、これはいけないことです。ノートの歌を推敲し、その上で書き寫すことも、竝行してやつていくやう、方針を變へます。
- 油紙みたいな冬の空を行く鳥の羽先は小刀に似る
- 1月27日
- 勞働の不條理を、また考へてゐました。
- 葉脈の細きに通る春の氣のまだ立たぬ日の風の寒さよ
- 1月28日
- 讀みたい本、讀むべき本が、積る積る。
- 振り向けば空つぽな道 少しづつかすれる未來都市の轟音
- 1月29日
- 近場に温泉施設が出來たので行つてきました。輕く湯中りし、何だか朦朧としてゐる日曜日です。
- 歌休み手に取る書の小さき乍ら熱き言葉の狂ほしきかな
- 1月30日
- 好きなやうに書けば、詩なり小説なりになると勝手に思ひ込んでゐましたが、考へてみればこれはやさぐれた發想法です。今年は拔本的に學び直す年になるのか……それにしても、やはりこの年齡がネックになるやうで……。
- 水ぬるみ潤ふ苔に相似する菓子ひとつ置くそのたなごころ
- 1月31日
- 勞働は思考や感覺を鈍磨させる/これは良くないことだが、禪はそれを逆轉させて活用してゐる?
- いつか見たホラー映畫を思はせる廊下に溜まる暗い相談