天使的

 男女兩方にもてて、それでゐて憎めない男がゐるものです。Y君がそんな男でした。僕らもてない男たちは、ある日Y君に「もてる祕訣」を聞くことにしました。Y君は言ひました。

「今、僕は天使のアルバイトをやつてるんだ」

「天使のアルバイト?」

「うん、ちよつと前に求人案内に天使募集つてのがあつて、面接受けたら採用されちやつてさあ」彼は上着の襟から光る輪をのぞかせました。

「本當はこれを頭にのせなくちぁいけないんだけど、恥づかしいからごまかしてるんだ。むかう一年間は、皆を幸せにすることが僕の仕事で、皆の幸せが天使としての給料なんだつて。僕がもてるつていふのは、さういふことだと思ふよ。でも、このアルバイトは、期限は一年間限りで、二度やることはできないんだつて」

 その後、Y君は一人の女の子とつきあひ始めました。もちろん、そのために失戀した子もゐましたが、彼らを恨む聲はあがらず、かへつて皆が祝福してゐました。

 しかし、僕たちには懸念がありました。一年後、Y君が天使でなくなつた瞬間、あのカップルは別れてしまふのではないか? ところが、そんな心配をよそに、一年經つても二人は仲良しなのです。僕らは不思議に思ひました。

 そんなとき、はじめて僕たちは氣づいたのです。Y君の彼女の頭の上に、光り輝く輪があることに。

「あと一年は大丈夫だ」

 僕たちはさう思って、胸をなでおろしました。


(コメントは後日追加の豫定です)